メンバーの本音を引き出す聴き方:信頼を築く傾聴の要諦
チームの本音に耳を傾ける重要性
リーダーの皆様は、日々の業務の中で、メンバーの真意や潜在的な課題をどこまで深く理解できているでしょうか。時に、メンバーからの報告が表層的なものであったり、あるいはコミュニケーションが一方的になりがちであると感じることもあるかもしれません。しかし、チームの生産性を高め、メンバーのモチベーションを維持し、さらには自律的な成長を促すためには、表面的な言葉の奥にある「本音」に耳を傾けることが不可欠です。
しなやかなリーダーシップを発揮するためには、メンバーとの間に強固な信頼関係を築き、彼らが安心して自身の考えや感情を共有できる環境を整備することが求められます。その基盤となるのが、共感と傾聴のスキルです。特に、相手の本音を引き出すための傾聴は、チーム内の課題を早期に発見し、より適切なサポートを提供するための鍵となります。
本音を引き出す傾聴の基本姿勢
傾聴とは、単に相手の言葉を聞き取るだけでなく、その言葉の裏にある感情や意図、背景までを深く理解しようとする積極的な聴き方です。メンバーの本音を引き出すためには、以下の基本姿勢が求められます。
- 判断を保留する: メンバーが話す内容に対し、すぐに評価を下したり、反論したりせず、まずは全てを受け止める姿勢が重要です。
- 先入観を持たない: 過去の経験やメンバーへの固定観念にとらわれず、今、彼らが話していることに集中し、新鮮な気持ちで耳を傾けます。
- 共感を示す: 相手の感情に寄り添い、「そう感じているのですね」「大変でしたね」といった言葉や態度で、その感情を理解していることを伝えます。これにより、メンバーは安心して心の内を明かしやすくなります。
- 沈黙を恐れない: 相手が考えをまとめるための時間や、感情を整理するための間を提供します。無理に言葉を埋めようとせず、待つ姿勢も傾聴の一部です。
実践!本音を引き出す具体的な聴き方
本音を引き出す傾聴は、いくつかの具体的なテクニックを組み合わせることで、その効果を高めることができます。
1. アクティブリスニングの活用
アクティブリスニングは、相手のメッセージを正確に理解し、理解していることを相手に伝えるための具体的な手法です。
- オープンクエスチョンの活用: 「はい」「いいえ」で答えられない質問をすることで、相手に具体的な状況や感情、考えを語ってもらいます。「この課題について、今どう感じていますか」や「どのように進めていきたいと考えていますか」といった問いかけが有効です。
- 明確化と確認(パラフレーズ、要約): 相手の言葉を自分の言葉で言い換えたり、要約して伝え返したりすることで、理解が合っているかを確認します。これにより、誤解を防ぎ、相手は「自分の話をしっかり聞いてもらえている」と感じ、さらに深く話そうとします。「つまり、〇〇が課題で、△△に不安を感じている、ということでしょうか」といった表現が使えます。
- 感情の反映: 相手の言葉から読み取れる感情を言葉にして返すことで、共感を示します。「それは大変でしたね」「少し戸惑っているように見えますが、いかがでしょうか」など、感情に焦点を当てて問いかけます。
2. ケーススタディ:具体的な会話例
IT開発チームの日常で起こりうるシチュエーションを想定し、具体的な会話例を通じて傾聴の実践方法を探ります。
ケース1: メンバーがタスクの進捗遅延を報告してきた際
一般的な反応: 「なぜ遅れているのですか。いつまでに完了できますか。」(問い詰める印象を与え、本音を話しにくい雰囲気を作る可能性があります)
本音を引き出す傾聴の例: メンバー: 「すみません、〇〇機能の開発が少し遅れています。」 リーダー: 「〇〇機能の進捗、教えてくれてありがとうございます。何が原因だと考えていますか。何か困っていることはありますか。」(オープンクエスチョンで状況把握を促す) メンバー: 「仕様が一部曖昧で、Aの部分の実装に時間がかかっています。あと、Bさんの担当するモジュールとの連携で不明点があり、少し手が止まってしまっています。」 リーダー: 「なるほど、仕様の曖昧さと、Bさん担当モジュールとの連携に課題があるのですね。特に、Aの部分ではどのような点で困っていますか。具体的に詰まっている箇所があれば教えてください。」(明確化と深掘り) メンバー: 「はい、Aの部分では、データ構造の設計がこれで本当に良いのか、判断に迷いがあります。これで進めて後から手戻りになると困るので。」 リーダー: 「手戻りを避けたいという気持ち、よく分かります。慎重に進めていますね。その点について、私にできるサポートはありますか。例えば、一緒に仕様を確認したり、過去の類似事例を共有したりすることもできますが。」(共感と具体的な支援の提案)
ケース2: メンバーがモチベーションの低下を示唆する発言をした際
一般的な反応: 「元気出してください。何かあったのですか。」(漠然とした問いかけは、本音を引き出しにくい場合があります)
本音を引き出す傾聴の例: メンバー: 「最近、正直なところ、少し疲れていて。このプロジェクトのゴールが見えにくい気がします。」 リーダー: 「最近、少しお疲れなのですね。プロジェクトのゴールが見えにくいと感じているとのこと、詳しく聞かせていただけますか。具体的に、どのような点がそう思わせるのでしょうか。」(感情の反映とオープンクエスチョン) メンバー: 「はい。自分が担当している部分が、全体のどこに繋がっているのかが分かりにくくて。ただコードを書いているだけの感覚になってしまう時があります。」 リーダー: 「自分の仕事が全体の中でどう位置づけられているか、見えにくいと感じているのですね。その中で、ただコードを書いているように感じてしまうことがある、と。それは少しもどかしいかもしれませんね。もしよろしければ、プロジェクト全体の進捗状況や、あなたの担当箇所が最終的にどのように貢献するのか、改めて共有する時間を設けましょうか。」(共感と状況の再確認、具体的な提案)
傾聴を習慣にするためのヒント
傾聴スキルは一朝一夕に身につくものではありません。日々の実践を通じて、意識的に習慣化していくことが重要です。
- ワンオンワンミーティングの活用: 定期的なワンオンワンミーティングは、メンバーが安心して本音を話せる貴重な機会です。業務の話だけでなく、キャリアや私生活の悩みなど、幅広く話を聞く時間として活用しましょう。
- 「聴く」ことに意識を集中する練習: 会話中、次に何を話すか考えるのではなく、相手の言葉と非言語的なメッセージに完全に集中する練習をします。
- フィードバックを求める: メンバーや同僚に「私の聴き方はどうでしたか」と尋ねることで、自身の傾聴スキルへの気づきを得ることができます。
- 自己認識を高める: 自身の感情や思考の癖を理解することは、他者の話を客観的に聴く上で役立ちます。
しなやかなリーダーシップへの道
メンバーの本音を引き出す傾聴は、単なるコミュニケーションスキルにとどまりません。それは、チームの潜在的な力を引き出し、自律的な成長を促し、強固な信頼関係を構築するための、リーダーにとって最も強力なツールの一つです。
共感と傾聴を通じてメンバーの真意を深く理解することで、リーダーはより的確なサポートを提供し、チーム全体を目標達成へと導くことができるでしょう。しなやかなリーダーシップは、まさにこの「聴く力」から生まれるのです。今日から、目の前のメンバーの言葉の奥にある「本音」に、もう一歩深く耳を傾けてみませんか。